インタビュー&レポート

万年筆販売員 西本和弘さんに聞く、廃番インク沼

紹介してくれたインクが並んだ写真

with ink.では、これまでもインクにまつわる様々な方々に、携わっているインクのお仕事の内容、おすすめの贈り物やご自身の愛用品まで、インクにまつわるいろいろなお話をうかがってきました。

今回は、万年筆の名物販売員 西本和弘さん(コーラス株式会社)に、「インク」にまつわるあれこれをインタビューさせていただきました。

かつて日本橋髙島屋S.Cで販売員をつとめ、現在は全国の文具専門店をまわりながら万年筆を販売している西本さん。
万年筆のイメージが強い西本さんですが、インク歴も18年というご経歴!
インクとの出会いから、すっかり「インク沼」にはまってしまったという現在までのお話をお聞きすることができました。

最後には、with ink.スタッフが、その場で手持ちの万年筆に合うインクをおすすめしてもらい、その観察眼に驚く体験もありました。

西本和弘さん(コーラス株式会社)

カリスマ販売員ではなく、「接客お化け」「妖怪万年筆買ってけ」ですよ。

インタビュー開始から、ご自身のことを「妖怪」「お化け」と独特な表現をする西本さん。

“友達が万年筆を売っている”くらいの立ち位置で日々お客様に接していて、カリスマだなんて高尚な表現をされるのはしっくりこないのだそう。

西本さん自身が運営するX(@enu_tea)でも、仕事のことだけでなく趣味の話などを発信しています。自分自身の身近なことに触れることによって、親しみやすさを感じてもらいたいとのこと。
お客様にも「ちょっと行ってみようかな」くらいの気持ちで足を運んでもらえたら、と語ります。

PROFILE 

西本 和弘さん
Kazuhiro Nishimoto

コーラス株式会社所属。
かつて日本橋髙島屋S.Cでセーラー万年筆の販売員をつとめた。現在もセーラー万年筆の製品に関する販売をお仕事にしており、万年筆出張販売イベント「出張!ntさん」を全国の文具店で実施するなど、流浪の万年筆屋として活躍中。

笑顔の西本さん

インクとの出会い

もともと万年筆の販売の仕事をはじめたことがきっかけで、万年筆のことを勉強するようになり、仕事として知識を深めていったという西本さん。
その中で万年筆の魅力に取りつかれてしまったよう。

今回、インタビュースタッフが実際に西本さんのコレクションに触れながら、お話を聞くことができました。

「インクとの出会いは、接客時のお客様との会話から」

インクに興味を持ったきっかけはどんなものだったのでしょうか?

接客していると、もちろんながらインクの話も出るんですよね。
色インクが珍しい時代で、セーラー万年筆の『ジェントルインク』のレッドブラウンを購入したんです。
インクって黒とブルーブラックだけじゃないことに気づき、じゃあ、他にどんな色があるんだろうと調べ始めたのが、インク沼にハマったきっかけです。

西本さんがインク沼にハマったきっかけのジェントルインクのレッドブラウン。
他に、イエローオレンジ、グレー、グリーンも。レトロで味がある素敵なパッケージ。

お客様との会話から興味を持つというのは、お客様と直接やり取りができる販売員ならではの素敵なきっかけ。ここからさらに西本さんは「インク沼」の深みへはまっていきます。

『廃番インク沼』

西本さんは、特に廃番になったインクを集めているとお聞きしました。新しく発売されるものではなく、昔のものへ魅力を感じられるのでしょうか?

お客様と日々接していると、「昔こんなインクがあったんだよ」「廃番になっちゃったインクがあって、似たようなインクを探してるんだ~」というキーワードが出てくるんです。

例えば、モンブランの『レーシンググリーン』っていう廃番のインク。このインクを探し求めている人がたくさんいらっしゃるんですよね。
「今入手できるインクだと、ここのお店のオリジナル品が似た色だ」なんて噂も一緒に聞くんです。
そこで、こんなにたくさんの人に好かれているインクはどんな色をしているのか、噂のインクに本当に似ているのかが気になって、オークションに出ているのを見かけたら買っちゃうわけです。

もともとアンティーク好きなこともあって、「お、これ面白いぞ」という感じでハマっていきました。
希少なものを保護する気持ち。捨てるなら買います!そんな気持ちで買い集めてます。
廃番品というだけあってその古さから実用に向かないものも多く、もっぱら保存・観賞用ですね。

モンブランのターコイズとルビーレッド。
※廃番となっているため、直営店での購入はできません。
こだわりの愛用バッグ『オールドコーチ』。高円寺の古着屋さんで購入したそう。イベントの際は、いつも足元に置いてるとのこと。仕事鞄からも、西本さんのアンティーク好きがうかがえます。

新作インクや限定インクに興味を持つことが多かったインタビュースタッフにとって、古いものに目を向けるというのはかえって新しい視点でした。でも、手に入りにくいものに魅力を感じることは同じなのかもしれません。

押入れサイズの収納ケース3箱分!?

コレクションされているインクの数はどのくらいになるのでしょうか?

表向きには、コレクション本数は300本と言っていますが、真実の数はわかりません。笑
インクは衣装ケースにいれていて、3箱分になります。サイズ的には押し入れサイズの衣装ケースです。
3年前に引っ越しをした際、引っ越し業者さんに「重たい!何入ってるんですか?」と叫ばれてしまいました。「ガラスと水です」なんて返しちゃって。

まさか、インクが入ってるなんて思わないですよね。

この衣装ケースに入れているインクには廃番インク以外も含まれていて、どのインクがどのあたりに入っているかは、だいたい把握しています。

まだまだ廃番インクを探す旅は続きますか?

まだまだほしいインクはたくさんあります。
毎日のように、日本だけでなく、海外のオークションサイトまでチェックしています。

ほしいと思っていたインクが復刻版として発売されるんです。とっても嬉しいには嬉しいのですが、個人的には「復刻ではなくてオリジナルの方のインクがほしい…」となるんです。
そうなって探し始めると、もうどこにもない!というループにはまってしまいます。

まだまだインク探しの旅は続きそうですね。

西本さんの廃番インクコレクション

そんな西本さんのコレクションを一部紹介していただきました。

コレクション①

おそらく1950~1960年代に製造されていたもの。今や珍しい瓶のインクです。

業務用と思われ、万年筆がビジネスでも筆記用具の主流として使われていた時代の大容量の瓶です。
西本さん曰く「本当かどうか定かではないですが、ウォーターサーバーから水をもらっていくように、個人の持つインク瓶へ小分けして使っていた、という話も聞きます。」とのこと。

瓶にセーラーのロゴが入っているのですが、サビていい味が出ています。

コレクション②

今見てもかわいさを感じる、黄色と紺のコントラストが素敵なレトロパッケージ。
おそらく1960年前後の製品。

インクが少なくなったら、瓶を横に傾けることで角にインクがたまり、万年筆へ吸引しやすくなります。おしゃれだと思っていた形が、実は機能的にも意味のある形だったとは!とスタッフは驚きました。

万年筆に合ったインク探し

with ink.撮影スタッフの持っていた万年筆『SHIKIORI ―四季織― 雪月空葉 万年筆 名月』にふと目を向けた西本さん。

「名月という名の万年筆ですから、月と空の組み合わせで、オレンジ色のインクをあわせて入れるのはどうですか?」と一言。
なんと、突然!万年筆に合ったインクをおすすめしていただきました。

この万年筆にはオレンジのインクが合いそうですか?

月の出る夜から考えて、ミッドナイトなブルーでもいいですよね。月と地球の対比で青、でもいいですし。
でも、この名月の持ち主の方は「差し色」や「補色」がお好きなんじゃないですか?

どうしてわかったんですか?

履いていた靴を見てそう思いました。服装は全体的に黒でまとめられていて、靴だけはっきりとしたオレンジ色でしたからね。
万年筆の軸と入れるインクのイメージを、合わせたい人と、ちょっと外して遊びたい人がいて、インタビューいただいた方は前者で、撮影いただいた方は後者かなと。

そのとおりです!ここまでぴったりと当てられるなんて不思議ですね。

これは接客テクニックなんです。
お客様の世界観にお邪魔して、服装や持っているもの、話し方すべてで総合的に分析して、
万年筆の商品の世界観と、その人としての世界観をあわせて、インクの色をおすすめしています。

話の流れから、思いがけず販売員としての西本さんの接客を受けることになったスタッフ。鋭い観察力とさりげなさの絶妙なバランスが心地よく、オレンジ色のインクを買いたくなってしまいました!

西本さんの接客が受けられる、万年筆販売イベント「出張!ntさん」

西本さん(ntさん)のインスタグラムが開設されました!
1月に開設されたばかりなので、ぜひ、フォローして万年筆出張販売イベント「出張!ntさん」の日程などチェックしてみてください。全国出張中、あなたの街にも現れるかも?

X:https://x.com/enu_tea
Instagram:https://www.instagram.com/enu_tea3/

廃番インクの話や、万年筆だけでなくその万年筆に合うインクについても、接客を受けてみてはいかがでしょうか?

※セーラー万年筆製の万年筆用ボトルインクは製造から約3年を目安に使い切っていただくことをおすすめしています。
極端に蒸発が見られるものや劣化したものなど、古いインクを使用したことによる万年筆やつけペンの不具合についてはメーカー保証いたしかねますので、使用については十分にご注意ください。