皆さんは、日々たくさんの文具やインクを集めていく中で、特に愛着を感じて、長く使い続けている『愛用品』はありますか? 気づけば毎日のように手に取っているものには、使い続ける道具へのこだわりと理由があるはず。
今回は、普段からお仕事でインクに深く携わられている方に、日頃から使っている『愛用品』のインクや筆記具をご紹介いただくととともに、それらを使い続けている理由について、伺ってみました。
目次
広瀬琢磨さん(Kakimori 代表)
「買ったお店の雰囲気や匂い、日常で使っていく過程で生まれる、人との関わり。そうしたすべてが、愛着につながっているのだと思う」
今回『愛用品』をご紹介いただくのは、台東区蔵前にある文具店「Kakimori」代表の広瀬琢磨さん。
Kakimoriは、「たのしく、書く人。」をコンセプトに、厳選されたインクや文具を販売している他、姉妹店「inkstand by kakimori」を店舗の2階で運営しています。「inkstand by kakimori」では、その場で自分だけのオーダーインクを調色してくれるサービスが提供されており、高い人気を集めています。
デジタルデバイスやインターネットが主流の時代だからこそ、手書き文化の価値を後世にまで伝えていきたい。そんな想いから、Kakimoriを始めたという広瀬さん。
インクや文具の作り手としては、日々新しい製品を色々と試しているそうですが、プライベートでずっと使い続けているものとなると、やはり限られてくるとのこと。
詳しくお聞きすると、そこには普段使用されている製品への、深い愛着とこだわりがありました。
広瀬さんの愛用品 ①:Kakimori インクスタンド オーダーインク35ml (愛用歴10年)
広瀬さん:
「Kakimoriを蔵前に開店したのが、2010年。当時はまだ、オーダーインクのサービスは行っていなかったものの、Kakimoriでは2013年から16色のオリジナルインクを企画し、販売していました。このインクは、その当時の色のBlue Poemを元にして、Kakimoriでオーダーインクのサービスを始めた2014年に、自分用の色として青みと強めて作ったものです」
自分が使いたい色を作り、愛着を持って現在まで使い続けてきた広瀬さん。このブルーグレーの、顔料ならではのはっきりとした発色と、ブルーブラックとも違った微妙なニュアンスが好きなポイントとのこと。
広瀬さん:
「染料インクには染料の良さがありますが、Kakimoriのインクは、すべて大阪のターナー色彩さんと顔料で作っています。私の場合、普段から必要以上にインクを買う習慣はないのですが、このインクは自分のために作った色で、手紙を書くときや、ちょっとした日常の中でも使い続けてきたので、自分にとって本当に愛着があるインクといえば、やはりこの色かなと。
これはKakimoriでも目指していることなのですが、買ったお店の雰囲気や匂い、日常で使っていく中で生まれる人との関わりなど、そうした全ての過程が、やがてモノへの愛着へとつながっていくのだと思います」
広瀬さんの愛用品 ②:Caran d’Ache(カランダッシュ) INFINITE GREY (愛用歴:4年)
広瀬さん:
「Kakimoriでオリジナルインクの瓶を作る際に、参考として、世界中のいろいろなインクを購入しました。その中でも特に素晴らしいと感じたのが、スイスの高級筆記具メーカー「Caran d’Ache(カランダッシュ)」のインクです。そんなに多色展開しているメーカーではないのに、このグレーのニュアンスカラーがラインナップにあることがまず面白かった。ありそうでなかなかない、高級感を感じるグレーですよね」
発色の難しいグレーのインクにも関わらず、存在感のある「Caran d’Ache(カランダッシュ)」のインク。濃淡やインク溜まりなど、顔料インクでは出しづらい染料インクの表情も気に入っているポイントだそう。
広瀬さん:
「一番惹かれたのが、なんといってもこのボトルの形状ですね。実際にKakimoriでもオリジナルボトルを制作してみてわかったのですが、梱包されている箱も含め、製品としてのこだわりや完成度の高さという点で、日本国内でこのボトルを量産するのはおそらく難しいのではないか、と思います。正直、日常で使う機会はそう多くありませんが、Kakimoriでのもの作りの姿勢にも影響を受けた、今でも大切にしている一本です」
広瀬さんの愛用品 ③:三菱 バンクペーパー(愛用歴:14年)
過去にwith ink.でご紹介したバンクペーパーのInstagram投稿はこちら
広瀬さん:
「バンクペーパーは、もともと三菱製紙が銀行の帳簿用紙として開発した紙で、万年筆インクにも相性が良いところが気に入っています。Kakimoriのオーダーノートでもずっと使わせていただいている主力の紙で、発色も良く、乾きやすく、耐久性もあるため、これからもお世話になる紙です」
筆記具を問わず、インクのノリが良いため、愛好家が多いバンクペーパー。よく見ると、三菱を表す「THREE DIAMONDS」の透かしが入っている。不透明度を高め、表裏面を感じさせない仕上げになっているのも特徴。
『バンクペーパー』の書き心地については、以前with ink.のInstagramでもご紹介していますので、こちらもチェックしてみてください!
広瀬さんの愛用品 ④:Kakimori Nib holder 山桜 + Metal nib – 真鍮 / Hasami pen rest – 油滴(愛用歴:3年)
広瀬さん:
「たまに書くならつけペンが今の時代にあっていると思って、2021年からつけペンを強化し始めました。自分でも気に入って使うようになったのは、山桜という木材。使い込んだ木のペン軸は、使うほどに風合いが増すのが良いですね。ペン先も、さまざまな形状や素材に取り替えられる構造にし、オーソドックスな形状のPennibでは、より書きやすさを大切にしました」
Metal nibの先端の形状は2種類あり、素材はそれぞれ真鍮とステンレスを用意。ほかにも少数ながら、ガラスで作られたnibも。普段は真鍮のnibを使用しているそう。
広瀬さん:
「ただペンを置くだけのものですが、机や棚の上にオブジェとして置いてきたくなるようなペン置きです。水のしずくをイメージしたこの波佐見焼のペン置きも、一つ一つ、色が微妙に異なっています。日頃使うものだからこそ、お店で手に取って選んでもらい、自分だけの気に入ったものを見つけていただきたいです。そうすると、愛着も増しますからね」
しずくをモチーフにした形がかわいいペン置きは、長崎県波佐見町の陶磁器、波佐見焼の窯元に特別に焼いてもらったもの。裏側に手押しされたKakimoriロゴもポイント。
PROFILE
広瀬琢磨(Kakimori・代表)
1980年、群馬県高崎市生まれ。外資系医療機器メーカーに勤務後、2010年に台東区蔵前に文具店「Kakimori」を開店。2014年、Kakimoriの2階にオーダーインクの店「inkstand by kakimori」を開店。
SHOP INFO
Kakimori
〒111-0055 東京都台東区三筋1-6-2 1F
営業時間 : 平日 12:00-18:00/土日祝 11:00-18:00
定休日:月曜
おわりに
インク愛好家の方にご自身の愛用品を聞く今回のコーナー、いかがだったでしょうか。
数ある色やボトル、その名前の中から、自分の気持ちを代弁してくれるような思い入れの強い一色に出会えるのも、インクならではの醍醐味かもしれません。
皆さんの愛用品インクや筆記具についても、ぜひインスタグラムのコメントで教えてくださいね。