春といえば、年度の変わり目であり、人生の節目を迎える新入生や新社会人にとってはこれまでと違った環境へ一歩踏み出す季節です。
そんな新入生や新社会人の皆さんに向けたお祝いの品として、今も昔も筆記具は定番のアイテムですが、いざ店頭で選ぼうとすると、数ある中から最適なものを選ぶのは意外と難しいもの。
今回は、「入学&入社祝い」の贈り物にぴったりな、お勧めのインクと筆記具の組み合わせを、文具選びのスペシャリストに選んでいただきました。
この春、新たな生活を始める大切な方への贈り物の候補のひとつとして、ぜひ参考にしてみてくださいね。
目次
〜代官山 蔦屋書店の文具コンシェルジュ『佐久間和子』さんのプロフィール〜
今回、「入学&入社祝い」としてインクと筆記具の組み合わせを選んでいただいたのは、代官山 蔦屋書店で『文具コンシェルジュ』を務められている佐久間和子さん。(以下、佐久間さん)
代官山 蔦屋書店の文具コーナーのSNS投稿などでよく知られている、文具選びのスペシャリストです。
まずは選んでいただく前に、気になる『文具コンシェルジュ』というお仕事について、お話をお聞きしました。
Q 佐久間さんが『文具コンシェルジュ』という肩書きを名乗ることになった経緯を教えてください。
もともと美術大学出身で絵画を専攻してきたこともあり、画材への興味が人一倍強かったんです。中でも万年筆やインクはデザインが好きで、気に入ったものを集めているうちに、製品が作られた時代背景や文化などにも詳しくなっていきました。
今から12年前に代官山 蔦屋書店ができたとき、専門知識を併せ持ったコンシェルジュを各売り場につける方針になり、その文具売り場の求人に応募して以来、今日まで『文具コンシェルジュ』として店頭に立たせていただいています。
Q 『文具コンシェルジュ』とは、具体的にどのようなお仕事なのでしょうか?
文具売り場での販売員の他に、売り場の商品をセレクトし、仕入れや販売計画を立てるMD(マーチャンダイズ)や、店頭で商品の魅力が視覚的に伝わるような売り場作りを設計するVMD(ビジュアル・マーチャンダイズ)の業務も行っています。
他にも、店舗で文具に関連したイベントを企画したり、SNSを通じて文具関係の広報活動を行ったりと、ただモノを売るだけではなく「文房具を通じてお客様の日常をもっと楽しくすること」を目指して、日々活動しています。
Q 紹介されている様々な文具の中で、インクはどのような立ち位置でしょうか?
文具売場の立ち上げ当初のコンセプトは「手書きの魅力や楽しさを伝える」ことを目標にしていたのですが、そのためには、まず第一に筆記具がなくてはならないもので、どちらかというとインクはそのついでに選ばれるもの、といったスタンスでした。
しかし、ここ数年でインクの人気が急速に高まったこともあり、商品の色数も製造しているメーカーも、以前とは比べものにならないくらいに増えています。中には筆記具ではなく、インクだけ探しに来店される方もいらっしゃいます。
コロナ禍でも、在宅で楽しめる趣味としてインク集めがSNSなどで広まって以降、一過性の流行で終わることもなく、今ではインクは万年筆やガラスペンと肩を並べるほど人気のあるジャンルに成長した印象です。
Q 普段からお仕事で気を配っていることがあれば教えてください。
すでに筆記具に愛着のある方だけでなく、初めてインクや筆記具を手にされた方が購入後も楽しく快適に使えるよう、それぞれに必要なアドバイスを心がけています。
例えば、初めてガラスペンを買っていただいたお客様には、うっかり割ってしまわないように日頃のお手入れをどのようにすればよいかなど、気をつけておきたいポイントを事前にお伝えするようにしています。
すでに自分でも150本以上インクをコレクションしているのですが、インクをお客様にお勧めするときに実際に使っている方がより丁寧に説明できるので、今でも月に1本は気になった色のインクを購入しています。
インクや筆記具を買われたことがない方でも来店されて気になる製品がありましたら、いつでもお声がけください。
SNSを通じてインクファンの間で話題となった、佐久間さん手描きのバースデイカード。文具コンシェルジュの仕事としてだけでなく、ライフワークとして9年の間、毎日描き続けたというイラストは書籍化もされており、国内外の豊富なインクの色見本帳としても使うことができる仕上がりに。掲載されたその色数は、なんと1211色・・・!
新入生への贈り物にお勧めしたい、インク&筆記具セット3選
新入生ということで、「初めての方にも気軽に使っていただけるインクと筆記具の組み合わせ」をテーマに、セレクトしていただきました。
01 「外国の筆記文化にちなんだインクと、シンプルなデザインの万年筆が、学びの場にぴったり」
【エルバン(HERBIN):トラディショナルインク ヴィオレパンセ(violette pensée)】✖️【カヴェコ(kaweco):クラシックスポーツ(CLASSIC Sport)】
インク
【エルバン(HERBIN):トラディショナルインク ヴィオレパンセ(violette pensée)】
メーカー希望小売価格:1,870円(税込)
「ヴィオレパンセは、一昔前、フランスの学校で指定色だったくらい定番のカラーです。学生の方が後々自分のお小遣いでも買い足せるお求めやすいお値段なので、今回のコンセプトにもぴったりな色。学生の方が違う国の文化を楽しむきっかけになれば嬉しいですね」
万年筆
【カヴェコ(kaweco):クラシックスポーツ(CLASSIC Sport)】
メーカー希望小売価格:4,400円(税込)
「ドイツのメーカー「カヴェコ」のクラシックスポーツは、価格帯もデザインもカジュアルなので、万年筆が初めての学生の方にもちょうど良い一本として人気があります。どこかレトロなフォルムと、豊富なカラーバリエーションが、日本のメーカーと少し違っているのが特徴。別売のコンバーターやクリップをつけることもできるので、カスタマイズの楽しさも◎です」
02 「春の色の楽しさを存分に満喫できる、遊び心にあふれた組み合わせ」
【セーラー万年筆:SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 若鶯/桜森】✖️【ぐり工房:和スイーツ さくら】
インク
【セーラー万年筆:SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 桜森】
【セーラー万年筆:SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 若鶯】
両方ともメーカー希望小売価格:1,320円(税込)
「ガラスペンはインクの色変えが楽なところが魅力なので、今回はSHIKIORIの春の色の中から2色、ガラスペンに合わせて選びました。セーラー万年筆のインクの魅力の一つに、20mlという容量のちょうど良さがあると思います。少なすぎず、多すぎないので、色々な色を試してみようという気持ちになりますね」
ガラスペン
【ぐり工房:和スイーツ さくら】
メーカー希望小売価格:13,200円(税込)
「ぐり工房」というキャリアの長いガラス作家さんが営む工房で丁寧に作られているガラスペンで、作家さんが作られているガラスペンの中ではリーズナブルなところも人気です。ガラスペンの書き心地や線の太さは作家さんによって大きく変わりますが、ぐり工房さんのガラスペンは安定感があって滑らか。つるつるっとした書き心地なので、最初のガラスペンとしてもちょうど良いかなと思います。和のスイーツをイメージして制作されているので、まじめにかしこまった感じではなく、インクと合わせて春の色の楽しさを存分に満喫してもらえたら嬉しいです」
03 「パッケージに学生らしさをのぞかせた、古き良き大正ロマンのレトロなデザインが魅力」
【寺西化学工業:ギター大正浪漫ハイカラインキ メランコリックブルー】✖️【寺西化学工業:ギター 万年筆】
インク
【寺西化学工業:ギター大正浪漫ハイカラインキ メランコリックブルー】
メーカー希望小売価格:1,870円(税込)
「大正時代に創業した寺西化学工業は、もともとはインクのメーカーで、製品にあるギターの名は、当時付けられていたロゴマークからとられています。創業当時の文化の流行色を思わせる豊富なカラーラインナップが魅力ですが、オフィシャルなシーンでもしっかり使えるダークブルー系のインクなら、目上の人へのお手紙に使っても失礼には当たらないかと思い、今回はメランコリックブルーを選びました。この色は、レトロなパッケージに描かれたイラストも学生服なので、新入学シーズンにぴったりです」
万年筆
【寺西化学工業:ギター 万年筆】
メーカー希望小売価格:2,750円(税込)
「インク同様、寺西化学工業の万年筆で、同じく大正時代の雰囲気をデザインに残した一本です。金属軸で、持ったときにずっしりとした重みを感じる高級感のある万年筆ですが、こちらもお値段はお求めやすい価格になっています。4色あるカラーバリエーションも年齢や性別を問わないラインナップなので、贈る相手に合わせて選べるのも嬉しいポイントです」
新社会人への贈り物にお勧めしたい、インク&筆記具セット3選
新社会人への贈り物には、プライベートとオフィシャルな使用をそれぞれ想定し、組み合わせとして見たときに、より高級感を感じられるようセレクトしていただきました。
01 「贈り物の定番だからこそ間違いない、人生の「船出」にぴったりの一生物をぜひ」
【ウォーターマン(waterman):ボトルインク ブラック】✖️【ウォーターマン(waterman):カレン ブラック・シー(carene black sea)GT 万年筆M 18金】
インク
【ウォーターマン(waterman):ボトルインク ブラック】
メーカー希望小売価格:1,980円(税込)
「ビジネスシーンでも使用できるブラックインクです。ブラックの違いについてあまり気にされる方はいないかもしれませんが、ウォーターマンのブラックは淡い優しい色をしています。濃淡が美しく、明るく透けるような部分と、色の溜まりがしっかり見えるので、使った時の筆跡が軽やかで優しい印象に。ブラックインクの色の奥深さに気づく、最初にぴったりの色です」
万年筆
【ウォーターマン(waterman):カレン ブラック・シーGT 万年筆 (Carène Black Sea FP GT)M 18金】
メーカー希望小売価格:66,000円(税込)
「ウォーターマンの万年筆カレンは、海面を滑り行く船の舳先をイメージして作られました。船出を連想させるカレンのデザインは、節目の贈り物に選ばれることが多い定番とも言える一本なので、一生物になります。同型のボールペンも人気ですが、お気に入りのインクと組み合わせることができる万年筆を、やはりお勧めしたいですね。高級感のある大人っぽい雰囲気だからこそ、今後成長していく新社会人の方に、少し背伸びをして持っていただきたい一本です」
02 「春の雨をイメージさせる同じコンセプトで作られたインクと万年筆のペアが、新社会人のプライベート使いにもぴったり」
【セーラー万年筆:SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク しとしと】✖️【セーラー万年筆:SHIKIORI ―四季織― 雨音 万年筆】
インク
【セーラー万年筆:SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク しとしと】
メーカー希望小売価格:1,320円(税込)
「春の雨をイメージした色のインクは、お仕事で使うよりも、ぜひプライベートで楽しく使っていただくイメージで選ばせていただきました。同じコンセプトで作られたインクと万年筆なので、相性はもちろん最高です」
万年筆
【セーラー万年筆:SHIKIORI ―四季織― 雨音 万年筆】
メーカー希望小売価格:40,700円(税込)
「春夏秋冬の雨音をイメージして作られた雨音シリーズの中で、代官山蔦屋書店ではこの「春雨」カラーが一番売れている色です。特徴は何といっても物語性のあるネーミングと、カラーリングですね。女性の方向けと思われるかもしれませんが、男性にも意外と人気の色です。また、21金のペン先がついているので、ちょっと贅沢な気分にもなります。21金のペン先は見た目だけではなく、金の含有量が14金より多いため、書き心地も弾力があり、柔らかく紙に寄り添うようなフィット感があるので、書き出しから気持ちよく感じられるはずです」
03 「使い込むほどに滲み出る経年変化から、人生をともに歩んでいく楽しさを感じてほしい」
【ローラー&クライナー(R&K):ボトルインク ヴァーディグリーズ(verdigris)】
✖️【ファーバーカステル(FABER-CASTELL):アンビション ウォルナット (AMBITION WALNUT) 】
インク
【ローラー&クライナー(R&K):ボトルインク ヴァーディグリーズ(verdigris)】
メーカー希望小売価格:1,650円(税込)
「社会人になって、使い込まれた道具のように成長していってほしいという思いから、選んだテーマは「経年変化」。このインクじたいが経年変化するわけではなく、真鍮や銅などの金属が酸化することによって発生する錆の一種である緑青(verdigris)の色をイメージして作られており、ブルーブラックにカテゴライズされるため、オフィシャルなシーンでも使用可能です。ぬるっとした書き心地が心地よく、インクが紙に吸い込まれていく瞬間は深緑のような色合いなのですが、少しずつインクが浸透していくにつれ、青みが引いて、だんだんとブルーブラックに近い、深い色合いになります」
万年筆
【ファーバーカステル(FABER-CASTELL):アンビション ウォルナット (AMBITION WALNUT) 】
メーカー希望小売価格:20,900円(税込)
「経年変化を楽しむなら、使い込んだ分だけ艶が出る木軸が一番です。樹種は様々なものがあるのですが、今回は落ち着きを感じさせるウォールナットを選びました。使い込むとだんだんと手の脂が染み込んでいき、ワックスをかけたように木目の雰囲気がはっきりと色濃く浮き出てきます。昔撮った写真を眺めるように、ある日ふとペンを眺めると、その違いに気づき、万年筆とともにがんばってきた日々を思い出す。節目の記念として、軸を育てる楽しみを体験できる、持ち主とその後の人生を共に過ごしていく。そんな一本です」
〜番外編〜 インクライフを豊かにしてくれるお勧め文具 3選
最後に番外編として、贈りたい方がすでにインクに親しまれている場合にも喜ばれる、お勧めのインク関連文具を3点、ご紹介いただきました。
01
【セーラー万年筆 空インクボトル】(写真左)
メーカー希望小売価格:605円(税込)
「セーラー万年筆の空インクボトルは、インクをお裾分けしたり、少量だけインクを持ち運びたいときにも便利なサイズで、コレクションにもぴったりです」
02
【エルバン(HERBIN):ブロッター】(写真中央)
メーカー希望小売価格:3,300円(税込)
「専用のブロッター用紙を底面に装着し、濡れたインクを乾く前に吸い取ることで滲みを抑えることができるエルバンのブロッターは、インクが乾くまで時間を待てない急ぎの時に、一つあると安心します。アンティーク調の形がかわいく、海外にはブロッターを集めている方もいらっしゃるそうです」
03
【アタシェ(attache):再生ガラス ペーパーウェイト】(写真右)
メーカー希望小売価格:2,200円(税込)
「テーブルに置いてあるだけでかわいいアタシェのペーパーウェイトは、再生ガラスを再利用したもの。一つ一つ微妙に味わいが異なり、贈り物にもぴったりなので、当店でも非常に人気のアイテムです」
【今回ご協力いただいた店舗】
代官山 蔦屋書店
〒150-0033
東京都渋谷区猿楽町17−5(営業時間:09:00〜22:00)
代官山 蔦屋書店 WEB SITE
代官山 蔦屋書店 文具のアカウント
おわりに
今回は「入学&入社祝い」をテーマに、新入生&新社会人それぞれに合わせたインクと筆記具の組み合わせを『文具コンシェルジュ』の佐久間さんに選んでいただきました。
普段、自分ではなかなか知ることのできない、それぞれのインクや筆記具に込められた作り手の想いを添えて贈ることで、手にしたときの愛着もきっと変わるはず。
身近な方への「入学&入社祝い」の参考にしていただければ幸いです。