先月の記事に引き続き、普段からお仕事でインクに深く携わられているインク愛好家に、日頃から使っている『愛用品』のインクや筆記具へのこだわりを伺うシリーズ。
第二弾の愛好家は、登録者数28万人越えを誇るYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」でおなじみ、有隣堂・文房具バイヤーの岡﨑弘子さんです。
愛着を通り越して、もはや偏愛⁉️とも言えそうな岡﨑さんの熱い愛用品への想いを、存分に語っていただきました。
目次
岡﨑弘子さん(有隣堂・文房具バイヤー)
「日頃から飲み続けている紅茶の色が本当に大好きで、好きなあまり、その色のインクを自分で作ってしまいました」
東京・神奈川・千葉を中心に、書籍や雑貨、ステーショナリー等を広く販売されている老舗書店、有隣堂。
今回『愛用品』をご紹介いただくのは、そんな有隣堂が運営している登録者28万人超え※の人気YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」で、名物出演者としても話題の、岡﨑弘子さんです。
(※ 2024年04月25時点)
現在は有隣堂の文房具バイヤーとして、主に商品のセレクトや買い付けを担当されている岡﨑さんですが、バイヤーに至るまでも、文具好きが高じて24年間の文具販売経験をお持ちという、大の文具愛好家の一面も。
その過程で、TV番組の「文房具王選手権」に二度出場し、どちらも準優勝したことをきっかけに、岡﨑さんの名前は「文具王になり損ねた女」(本人談)として、文具ファンにも広く知られるようになりました。
「仕事もメディア出演も、決して得意だからできているというわけではなくて、ただ扱っているものが本当に自分の好きなものだから」と控えめにお話されていた岡﨑さん。好きなものにまっすぐで、飾らないその姿勢がYouTubeで人気を呼び、今では、自分の好きなものを自由にお薦めできる『岡﨑百貨店』という店舗を任されるまでに至ったそうです。
そんな、「好き!」を届けるスペシャリストの岡﨑さんが、日頃から愛用しているインクはどのようなものなのか、さっそく伺ってみることにしました。
岡﨑さんの愛用品 ①:岡﨑百貨店オリジナルインクASSAM RED
岡﨑さん:
「静岡の紅茶ブランド『teteria(テテリア)』の紅茶が好きで、自分で運営している岡﨑百貨店にも置かせてもらえないか相談をしに、イベントに足を運んだりしていました。
ある日、いつものように紅茶を飲んでいたら、光に当たったその色が本当に綺麗で、この素敵な色を何とかインクで再現できないものかと思い、会社にオリジナルインクの企画を提案し、実際に作ってもらったのが、このインクです」
アッサムティーの深い紅色に加えて、少し滲んだときには、カップの縁にうっすらと光が当たった淡い黄色を忠実に再現。パッケージのラベルも、岡﨑さんのこだわりで、活版印刷で岡﨑百貨店のロゴを刻印したそう。
岡﨑さん:
「やるからには全く同じ紅茶色にしたいと思っていたのですが、紅茶に陽が当たったときの、カップの縁の色の変化まで再現することができませんでした。製造をお願いしたTAG STATIONERYさんに何度も繰り返し調色をしてもらって、遂に、うっすらと縁が黄色く見えるところまで忠実に再現していただきました。
まだ発売から1年経っていない新しいアイテムですが、この紅茶の色に対する思い入れや愛着は他にないものだったので、今回、愛用品として紹介させていただきました」
岡﨑さんの愛用品 ②:ウォーターマン ボトルインク ミステリアス ブルー(ブルーブラック)(愛用歴:30年)
岡﨑さん:
「もう何度も買い直しているので、初めて買った日がいつか覚えていないのですが、おそらく30年くらい前に、人生最初に買ったインクが、このインクです。
昔は仕事でも、発注書を万年筆で書いたりしていたんですよ。他にも、母に手紙を書いたり、お礼状や季節のポストカードに一言添えたりと、このインクを使う場面は、けっこう多かった記憶があります。
今でこそブラックの良さもわかるようになりましたが、昔は万年筆で書いたことが一目でわかるブルーブラックが好きでした。たくさん入っているのでなかなかなくならないのですが、当時、万年筆もウォーターマンを愛用していて、それとセットで買った記憶があります」
インク愛好家からの人気が非常に高い、ウォーターマンのブルーブラック。まだ今ほどインクの色に選択肢がなかった30年前、ブルーブラックは、インクの鮮やかさを感じさせる特別な色だったのかもしれない。
岡﨑さん:
「私はおじいちゃんっ子で、小さな頃におじいちゃんが絵手紙をたくさん書いてくれて。何年もの間、ほとんど毎日くれていた記憶があって、もしかしたらその経験があったから、今でもこんなに手書きが好きなのかもしれません。
日本製のブルーブラックも綺麗なのですが、ウォーターマンのブルーブラックが好きなのは、意外と「ふわっ」としているところ。濃すぎず、どこかやわらかい感じがして、そこがまさにミステリアスな色なんです」
岡﨑さんの愛用品 ③:SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 夜桜(愛用歴:7年)
岡﨑さん:
「和の色が好きだった私にとって、SHIKIORIシリーズが出たときは、本当に衝撃でした。そのSHIKIORIを何本か買った中でも、一番気に入って、今でも買い足してきたのが、この夜桜。使ってみるとわかるのですが、本当にふんわり薄くて、儚い色をしているんですよ。パキッとした、よくあるピンクの桜色じゃなくて、私たちの頭の中にある色というか、言われてみたら、ああ本当に夜の桜だなって、思わせてくれる色なんです」
SHIKIORIの夜桜の開発秘話について、過去の記事でインクブレンダー石丸治さんに語っていただいた記事はこちら
岡﨑さん:
「岡﨑百貨店でガラスペンをお薦めするときには、インクに必ず夜桜を使ってもらうようにしています。セーラー万年筆のインクは、ガラスペンのノリが良いので、初めてガラスペンを使用するインク初心者向けにもちょうど良いんです。だいたいの方が、自分の欲しい色と合わせて、夜桜も買っていってくれるんですよ。
お店でも使用頻度が高いこともあって、私の持っているインクの中でも、夜桜はすぐになくなってしまう色の一つです」
岡﨑さんの愛用品 ④:TAG STATIONERY KYOTO 京の音 小豆色(愛用歴:3年)
岡﨑さん:
「京の音シリーズはどれも色の世界観がすごく好きで、その中でもこの小豆色は、まず名前に惹かれて購入しました。小豆色って、いったいどんな色なんだろうという興味が湧いて、手に取った記憶があります。
普段お店で着ているエプロンの色もそうなんですが、ちょっとくすんだ、アンティークっぽい色が好きなんです。実際に使ってみると、やっぱり私のすごく好きな色でしたね」
京都の伝統色を現代の技法を用いて再現したという、染料インクシリーズ「京の音」。この小豆色は、アズキの実のような紫味のある赤褐色で、古来から赤は、豊作や子宝などの祈願の色としても使われていた色なのだそう。
岡﨑さん:
「TAG STATIONERYの京の音シリーズのラベルデザインの余白は、自分で色をつけるために空いていると聞いたことがあるのですが、私は瓶を開けたときにうっかりインクをこぼしてしまって、意図せず色が着いてしまいました。ちょっと汚れていますが、これも愛用品の味だと思ってください(笑)」
岡﨑さんの愛用品 ⑤:富国紙業 PALLET PAPER(有隣堂限定5mm方眼紙)
岡﨑さん:
「富国紙業のPALLET PAPERがとても好きで、手書きならこれ、と決めています。こちらはダンデレードCoCという紙を使って5mmの方眼を印刷した有隣堂限定の用紙で、マス目のサイズから紙質まで、私も意見をだして決めさせてもらった思い出の品。ですが、残念ながら人気でもう在庫が残っていません。
ただ、紙そのものが本当に素晴らしく、インクのノリも良いので、手書きが好きな方にぜひ試してみていただきたいです。地味ですが、外装用のパラフィン紙は無理を言ってつけてもらった、アンティーク好きな私のこだわりだったりします」
岡﨑さんの愛用品 ⑥:chigiradio ペントレイ/あめつち 本型ペンレスト/Seed Lampwork 一線(ブラック)
岡﨑さん:
「この銀のペントレイはChigiradioさんという鍛金作家の方の作品で、一枚一枚手作り。本の形がかわいいペンレストは、石川県のあめつちさんという作家さんがご夫婦で作られているもの。どうしてもこの方に会いたくて、金沢のイベントまで行って買った思い入れがあります。
ガラスペンは、岩手県在住のガラスペン作家『Seed Lampwork』平野元気さんの「一線(ブラック)」です。一線シリーズは、透明度の高いガラスの中に1色の線が入っています。中にシルバーのキラキラした反射が見られ、夜の海が月明かりに照らされているような幻想的な色合いがとても気に入っています。
どれも一つ一つ丁寧に作られた一点もので、大切に使っています」
PROFILE
岡﨑弘子(有隣堂・文具バイヤー)
1990年、有隣堂に入社。現在は有隣堂 事業開発部商材開発・店売事業本部 仕入・販促課所属。2022年、横浜市中区桜木町の「STORY STORY YOKOHAMA」内にて、自ら店主を務める「岡﨑百貨店」をオープン。
YouTube チャンネル:有隣堂しか知らない世界
SHOP INFO
有隣堂
〒231-8623
神奈川県横浜市中区伊勢佐木町 1-4-1
おわりに
有隣堂・文房具バイヤー岡﨑弘子さんの愛用品紹介、いかがだったでしょうか?
お話を伺いながら、普段の岡﨑さんの柔らかなお人柄の背後に、日頃から選んで使うものに対する、尽きることのない愛情が感じられました。
今後も機会があれば愛用品紹介ができればと思いますので、「あの人の愛用品を聞いてほしい!」などの要望があれば、ぜひInstagramコメント欄に書き込んでくださいね。