『with Creators』とは、イラストや水彩画、カリグラフィーなどさまざまなジャンルのクリエイターさんと、その作品を通して万年筆やインクの魅力をたっぷり満喫していく、連載コーナー。
第6回目のクリエイターさんは、万年筆画家・絵本作家としてインクを使った作品を制作されている『サトウヒロシ』さんです。
ご自身の作品を作られる他にも、インク水彩の講座なども開かれているサトウヒロシさんに、今回は、旬の食材を使った「ベーコンアスパラソテーのポーチドエッグのせ」のイラストを描いていただきました。
長年インクに触れているからこその、インクに対する思いについてもお話を伺うことができましたので、食欲をそそるイラストとともに、ぜひご覧ください。
目次
使用するインクについて
今回の作品では、『SHIKIORI ―四季織―』の春、夏カラーをメインに、下塗りには『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料』のパープル、イエロー、グリーン、ピンク、オレンジを調色したインクを使用して制作されているとのこと。
鮮やかで艶のある、魅力的な「料理」を描いた作品を深掘りしていきます!
顔料インクで下塗り
サトウヒロシさん:
「鉛筆で大まかなアタリをとったあと、顔料インク『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料』で調色したインクを使って、全体に色を入れていきます」
サトウヒロシさん:
「この後上に着色していきますが、明るくなる部分はこの下塗りの色を活かしていくので、仕上がりのときの明るい部分の色を大まかにイメージしておきます」
ここでの下塗りの色がどんなふうに活きてくるのか、続く工程が気になります!
使用しているインク:
■『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料 20ml パープル』
■『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料 20ml イエロー』
■『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料 20ml グリーン』
■『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料 20ml ピンク』
■『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料 20ml オレンジ』
染料インクで着彩
サトウヒロシさん:
「下描きに沿ってアスパラ、ベーコン、ポーチドエッグに染料インク『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク』で着彩をしていきます。
アスパラには『若鶯』、ベーコンには『夜焚』、卵の黄身には『金木犀』を使用しています」
サトウヒロシさん:
「乾燥させてから、水でインクを溶かして濃淡を作り、多少の陰影をつけておきます。ここまでは、次の工程の下準備ですね」
この状態でも、鮮やかな食材の色味が伝わってきますが、次の工程には一体どんな仕掛けがあるのでしょうか!
使用しているインク:
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 若鶯』
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 夜焚』
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 金木犀』
『GANGY(ガンヂー)インキ消』で色消し
『GANGY(ガンヂー)インキ消』は、万年筆インクでの書き損じを化学反応によって消すことができる製品です。
ボールペン用もありますが、今回は万年筆インク用の『GANGY(ガンヂー)インキ消』を使用しています。
※製品の赤液と白液を絶対に混合させないでください。ご使用の際は、製品の注意事項をご確認の上、ご使用をお願いいたします。
サトウヒロシさん:
「『GANGY(ガンヂー)インキ消』で明るくしたい部分の染料インクを消していきます。『GANGY(ガンヂー)インキ消』は《染料インクのみ》消えるので、使用すると顔料インクの下塗りが見えてくるんです」
サトウヒロシさん:
「顔料インクの下地〜染料インクの着彩で準備した仕掛けをここで解放、一気に全体像が見えてきます。まさに《絵が化ける瞬間》なので描いている自分もドキドキしながらその変化を楽しんでいます」
『GANGY(ガンヂー)インキ消』で、染料インクの色を抜いた部分から下塗りの色が顔を出すことで、一気にモチーフの立体感や表情が現れました!
ディティールの描き込み
サトウヒロシさん:
「ほぼ全体の絵柄が出来上がってきているので、染料インクでディテールの描き込みをしていきます。アスパラには『若鶯』、ベーコンの明るい色には『桜森』を使用しています」
サトウヒロシさん:
「インクが乾いたら水をスプレーで噴霧し、色抜きを行います。この作業で全体がメッシュ状の質感になり、色合いが自然に馴染むんです」
確かに、隣り合った色たちが馴染んで、柔らかくまとまったような印象を受けますね。
サトウヒロシさん:
「その後さらに、『土用』でベーコンの焦げ目、『利休茶』でアスパラの陰影や油の質感を描き込んでいきます」
ディティールを描き込んでいくことで、それぞれのモチーフらしい質感がどんどんリアルに。
油の質感は本当に食欲がそそられます!
使用しているインク:
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 若鶯』
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 桜森』
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 土用』
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 利休茶』
仕上げ
サトウヒロシさん:
「仕上げに、『コピック オペークホワイト 6ml(ブラシ付き)』でハイライトや粉末チーズを描き込んだり、『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 土用』で点状に描き込むことで、胡椒を表現したりしています」
本当に料理をするときのように、仕上げに粉チーズと胡椒。
とろりと溶け出しそうな卵の黄身や油の艶によって、食卓の雰囲気まで想像が膨らみますね!
使用しているインク:
■『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 土用』
制作を終えて
制作を終えたサトウヒロシさんに、インクについていくつか質問をさせていただきました。
ー今回は旬の食材を使った料理をモチーフに制作いただきましたが、使用したインクの中で、お気に入りの色はありましたか?
下地で使用している『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料』を調色して作った3色は、私が現在描いている作品のほぼ全てで使用しているのでお気に入りです。
さまざまある顔料インクの中でも、『STORiA mix』の耐水、発色、定着感はずば抜けて良いと思います。
また、ベーコンにメインで使用した『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 夜焚』は想像以上にベーコンになってくれて、好きになりました(笑)「このインクは単色で〇〇︎を表現できる」と言い切れてしまうインクは覚えやすいし、使う機会がとても増えます。
ーサトウヒロシさんの思う、インクの魅力や面白さについてお聞かせください。
「発祥が画材ではない」ことが今は最も面白い要因だと思っています。
筆記具から生まれた万年筆インクは、絵を描く道具としての歴史がほとんどなく、技法そのものが発展途上です。
インクならではの描き方がどんどん生まれて、描く人が増えて、メーカーさんもそれに合わせて新しいインクを開発してくれる。
ガラスペンの流行に合わせて、濃いラメインクや顔料インクが増えてきているのは、わかりやすい例だと思います。
インクだけでなく、筆記具も次々と新しい道具が生まれていて、新しい道具と新しい技法のスパイラルがぐるぐると絡まりながら成長していく、その過程で僕たちは今絵を描いています。
今では本格的な絵画もインクで描けてしまうほどにインクの種類も道具も技法も充実してきました。良い時代です!
また、インクユーザーはインクだけでなく万年筆、ガラスペン、つけペン、紙などとにかくインクまわりの道具への関心が高いことが特徴です。
絵は「上手い下手」が話題になりやすいところで、「道具」を通じて技量や世代に関わらず仲間を作れるところがインクで描く最大の長所ではないでしょうか。楽しさを共有できる仲間を作りやすいことも、インクの魅力のひとつですね。
使用したインク/画材(セーラー万年筆 提供):
・『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク』
夜桜、若鶯、夜焚、土用、利休茶、金木犀
・『万年筆用ボトルインク STORiA MiX 顔料 20ml』
イエロー、パープル、グリーン、ピンク、オレンジ
イラスト/解説:
サトウヒロシ
HP:http://art.salty-frog.com/
Instagram:https://www.instagram.com/salty_f/
X:https://twitter.com/salty_f
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCFto2D2ETiOohccNN6nr46Q
おわりに
今回は、万年筆画家・絵本作家のサトウヒロシさんに、旬の食材を使った料理のイラストを描いていただきました。
複雑な制作過程を経ることで、鮮やかで艶のある食材の質感まで伝わってくる、立体的な表現を見ることができました。
さまざまなジャンルのクリエイターさんと一緒に、その作品を通して万年筆やインクの魅力をお届けしてきた『with Creators』ですが、次回より不定期の更新となります。
with ink.では、インクライフがもっと楽しくなるさまざまコンテンツを発信していきますので、引き続きInstagramやwebサイトをぜひチェックしてみてください。