インクで書く/描く

プロに学ぶ インクを使ったハンドレタリング

レッスン前後の作品、使用したインクやペンが並んだ写真

誰かにメッセージを送るとき、手書きの文字だけでも充分に思いを伝えることができますが、『ハンドレタリング』で自分がデザインした文字を使うことで、さらに魅力的なメッセージを届けることができます。
そうはいっても、どうすればいいのかはなかなかわからないものですよね。

そこで今回は、数々のワークショップを開催し、ハンドレタリングの本も出版されている『bechori(べちょり)』さんに、インクを使ったハンドレタリングのレッスンをしていただきました!

誕生日のお祝いに送るバースデーカードをお題に、レタリングの進め方やポイントを教わりましたので、ぜひ皆さんも参考にしてみてくださいね。

今回レッスンを受けるスタッフのお悩みポイント

レッスンを受ける前に、スタッフが一度レタリングに挑戦しました!

レッスン前のスタッフの作品
レッスンを受ける前にスタッフが作成したバースデーカード。

作成してみてスタッフが感じたお悩みポイントは、大きく3つでした。
・書いていく手順がわからずに、迷ってしまう。
・文字ごとのバランスと全体のバランスを取るのが難しい。
・インクの色選びに悩んでしまう。

『bechori(べちょり)』さんプロフィール

bechoriさんの紹介写真

今回ハンドレタリングを教えていただいたのは、『bechori(べちょり)』さん。
2016年にレタリングの世界を知り、独学で作品を作り続けて、2019年からレタリング作家として本格的に活動を開始。
そして現在も、SNSやワークショップを通して、手書きの楽しさを伝える活動を続けていらっしゃいます。

bechoriさんの作品1
インクを使ったbechoriさんの作品。
bechoriさんの作品2
ペンを使ったbechoriさんの作品。

bechori(べちょり)
Instagram:https://www.instagram.com/bechori777/
X:https://twitter.com/bechori777
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC1dbyA3Zv5-rikNEpExOM6A
Lit.Link:https://lit.link/bechori

ハンドレタリングとは

『ハンドレタリング』とは、文字をデザインしながら自由に言葉を綴ること。
同じく手書きの文字を扱うカリグラフィーとの違いを、bechoriさんにお聞きしました。

bechoriさん「カリグラフィーは直訳すると『西洋の書道』という意味合いがあって、明確なルールがあり、それ通りに書くことがよしとされているものです。
ハンドレタリングはもっと自由で、文字をデザインしながら自分の好きなように書いちゃえっていう風に、文字を書くというよりは絵を描いているような感覚に近いですね」

インクを使ったレタリングの魅力

続いて、ハンドレタリングにおいてインクを使うことの魅力についてもお伺いしました。

bechoriさん「そのほかの筆記具だと出ないインクの濃淡や質感、筆記線のわずかな揺らぎのようなものが魅力的で、書いた人の性格が文字に出ているように感じるところが面白いと思っています」

bechoriさんの作品3
インクを使ったbechoriさんの作品。1色のインクで書かれていますが、濃淡によって様々な表情を見ることができます。

それではさっそく、プロに学ぶハンドレタリングレッスンのスタートです!

プロに学ぶハンドレタリング① まずはレイアウトを決めよう

bechoriさん「ハンドレタリングでメッセージを書くときのポイントはざっくり言って、レイアウト、文字の書体、色の3つです」

スタッフ「レッスン前に書いてみたときに、なにから始めたらいいのかがわからない、というのを最初に思いました」

bechoriさん「そうですよね。初めてレタリングをやる場合には、必ず下書きをして、レイアウトをとることをおすすめしています」

レイアウトを決める手順

bechoriさん「今回は、一番無難なセンター揃えの構図にしようと思います。センター揃えで、文字のレイアウトを決めるときの手順を説明しますね」

レイアウトを決める手順1

1.
まず、書こうとしているフレーズを単語に分解して、縦に並べます。
そして、単語ごとに文字数をカウントします。
例:『HAPPY』は5文字、『Birthday』は8文字

そうすることで、この単語を書くのにどのくらいのスペースが必要なのかが分かりやすくなります。

レイアウトを決める手順2

2.
次に、キーワードを定めます。
このワードがないと意味が成り立たなくなるワードを、最低1個設定します。
今回は『Birthday』がキーワード。
同時にサブワードも設定しておきましょう。
サブワードは、それ単体では意味がないものになります。(前置詞や定冠詞など)
今回は『to』がサブワード。

レイアウトを決める手順3

3.
続いて、下書き用のコピー用紙にレイアウトをしていきます。
最初から文字でレイアウトをとるのではなく、単語を一つのブロック(■の枠)に見立てて配置していきます。

キーワードの単語が入るブロックを一番大きいサイズ、サブワードを小さめに。

レイアウトを決める手順4

4.
そして、配置したブロックの中に、実際に文字を書いていきます。
この段階では書体は気にせず、文字だけをはめていきます。

bechoriさん「ブロックを配置するポイントとして、ブロック間の上下のスペースが空いてしまい、スカスカな印象になることが多いです。単語同士を気持ちギュッと詰めて配置していくことで綺麗なレイアウトになります」

プロに学ぶハンドレタリング② 書体を決めて下書き

bechoriさん「レイアウトが決まれば次は、どんな書体にするか、を決めていきます。
ここで丁寧に書く必要はないので、自分の中でどんな書体で書こうかを決めていきましょう。
ここは筆記体でここはブロック体にしよう、くらいざっくりで大丈夫です」

書体を決めるときの下書き用紙

スタッフ「使用する書体は何種類くらいが良いのでしょうか」

bechoriさん「あまり種類が多いとごちゃごちゃしてしまうので、3種類くらいに抑えるのがまとまって見えるのでおすすめです」

決めた書体を書いていく

bechoriさん「それでは、下書き用の紙に本番と同じサイズの枠を作り、シャープペンシルで本番さながらに書いていきます。
この下書き用の紙に書いたものを、透かしながら本番の紙にインクで書いていくので、ここに一番時間かけましょう」

本番と同じサイズの枠を作っている様子
本番と同じサイズの枠を作り、この中に下書きを書いていきます。

bechoriさん「では、決めた書体の輪郭を決めていきます。まず一本線で書いていき、その後に太くする場所に線を付け足していくという流れが基本になります」

下書きをしている様子

『Happy』

『Happy』はセリフ体のような少し飾りのついた書体に挑戦します!

bechoriさん「縦線だけを太くしていくときは、太さがその単語の中で均一になるように意識していくと綺麗にまとまります」

Happyを拡大した写真
『Happy』であれば、『Happy』の中で太くする部分の太さをそろえることで、綺麗にまとまって見えます。

『Birthday』

『Birthday』には筆記体を使っていきます。

bechoriさん「筆記体について多い勘違いとして、一筆で書かなきゃと思われていることがあるんですけど、一筆で書かないで大丈夫なんです。
なるべく短い線を繋げながら書いていくんですよ。
『B』を書いて次の文字を書くときに前の文字の終わりの線に、次の文字の線をぶつけるように意識して書いていけば繋がって見えるんです」

筆記体を分解した様子と繋げた様子の写真
筆記体を一文字ずつに分解したもの(写真上部)をつなげていくことで、筆記体(写真下部)を表現することができます。

bechoriさん「今回は縦線だけ太くしていきます。カリグラフィーでは、線に筆圧で強弱をつけて太さの変化を出していくんですけど、それをシャープペンシルでゆっくり再現していくようなイメージです。
縦線の右側を太くしていき、『B』や『d』や『a』にあるカーブの部分は内側に太くしていきます」

筆記体の線を太くしていく様子

『to』『YOU』

bechoriさん「『to』はサブワードでもあるので、一本線でもよいと思います。その分『YOU』を大きくどっしりとしたブロック体で目立たせてあげましょう」

レッスンを受けているスタッフが書いた下書き
スタッフがレッスン中に書いた下書き。

本番を書き始める前の準備

bechoriさん「ここまでくれば、本番用の紙を下書きの紙に重ねて、それをトレースするだけで完成です!
そのための準備として、マスキングテープで本番の紙と下書きの紙を固定して、トレースしているときにずれないようにしておきます」

本番の紙をテープで固定している様子
紙を止めるときに上下左右のレイアウトを微調整してもOK。
テープの粘着力を弱めている様子
手の甲などに2、3回張り付けてテープの粘着力を少し弱めておくと、剥がすときに紙が破けるのを防ぐことができます。

プロに学ぶハンドレタリング③ 配色を考えよう

配色を考えている様子

スタッフ「色数については何色くらいが良いかの目安はあるのでしょうか」

bechoriさん「あんまり多くてもごちゃごちゃしちゃうので、3〜4色くらいに抑えるのがおすすめです。
色の印象は結構大きくて、色の組み合わせで季節感を出せたり、おめでたい雰囲気を出せたり。色でどうとでも世界観を演出できるんですよ」

色選びのために作成した色見本
色を選ぶときには、なるべく広い面積で試し塗りして比較をするとイメージがしやすくなります。

スタッフ「いざ色を選ぶとなると、結構悩んでしまうんです」

bechoriさん「あまり色に決まりはないのですが、色の選び方にはいくつかコツあります」

①誰に向けたメッセージなのかで色を決める。
(男性に向けているのか女性に向けているのか、友達なのか家族なのかなど)
②設定したキーワードに使うメインの色を決めて、それに合う色を選んでいく。
(キーワードに明るく目立つオレンジにして、そのほかを暖色系でそろえてみるなど)
③書いているフレーズの印象を元に決めていく。
(ハッピーバースデーはおめでたい感じがあるのであったかい、明るい色など)

スタッフ「メッセージを送る相手のことを考えながら色を決めていくのは、悩みながらも楽しい時間になりますね!」

今回の配色は、以下の4色に決めました!
『Happy』は、
『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 桜森』
『Birthday』は、
『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 夜桜』
『to』は、
『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク しとしと』
『YOU』は、
『SHIKIORI ―四季織― 万年筆用ボトルインク 金木犀』

プロに学ぶハンドレタリング④ インクを使って清書

いよいよ、インクを使って清書していきます!
今回はガラスペンを使います。

スタッフ「色を塗るのに順番はあるのでしょうか」

bechoriさん「輪郭を取ってからすぐ中を塗ると綺麗でナチュラルな仕上がりになります。
全部の文字の輪郭を取ってから中を塗ると、輪郭線が乾いた後に中を塗ることになるので、二度書きしたのがバレやすくなっちゃうんですよね」

ガラスペンで書き進めている様子
一文字ずつ輪郭を取ってから中を塗り、ゆっくり丁寧に書いていきます。

文字にエフェクトをつける

bechoriさん「ワンパターンにならないように、『Birthday』にはエフェクトをつけようと思うので、一旦輪郭だけ取ってみてください。太くした縦線の中をどう塗りつぶすかで、色々アレンジができるんです」

Birthdayを拡大した写真
今回挑戦するドットのグラデーションのエフェクト。

bechoriさん「今回は、ドットのグラデーションの作り方をご説明します」

ドットのグラデーションの作り方1

1.
まず、太くした線の下の方を塗っていきます。
同じ高さくらいずつ塗っていくのがポイントです。

ドットのグラデーションの作り方2

2.
次に、ドットを打っていきます。
下の方はドットの密度を高く、徐々にまばらにしていくことで、グラデーションになっていきます。
ポイントは、最初に塗りつぶした場所の中からドットを打ち始めること。
そうすることで、塗りつぶしとドットの境目をナチュラルにすることができます。

ドットのグラデーションを作っている様子

装飾を加えて完成

bechoriさん「文字だけだと、余白が多めになるので装飾でにぎやかにしていきます。
でも入れすぎてしまうとやっぱりごちゃごちゃしちゃうので、もう少し書きたいかもというところで止めておくのがポイント」

装飾している様子

装飾を終えたところでついに完成です!

レッスン後のスタッフが書いた作品

レッスンを終えて

スタッフ「本日はありがとうございました!レッスン前の自分のものと比べると、本当に見違えるように上手くなった気がしています!」

レッスン前後の作品の比較写真

bechoriさん「おめでとうございます!ハンドレタリングはポイントをおさえれば、どなたでも素敵な作品を作ることができるんです。
得意ではないと思っている方も、ゆっくり丁寧に書いていくことで上達できるはずなので、ぜひ挑戦してみてほしいです」

レタリングについてお話ししているbechoriさん

bechoriさん「とにかく時間をかけて書いていくことが大事なんですけど、時代的になかなかそういったやり方に慣れない方が多いのではないかと感じています。
それでも、ゆっくり丁寧に書いたもののほうが、仮になんだかうまく書けなかったかなー、と思っても丁寧に書いたことが相手に伝わるので、それはやっぱり素敵なことだと思っています」

今回のレッスンをしていただく中で、bechoriさんが描いてくださった作品
今回のレッスンをしていただく中で、bechoriさんが描いてくださった作品。

スタッフ「手紙を送るときはやっぱり相手のことを思いながら書くと思うのですが、書体や色を考えることが、色々な角度から相手のことを考えることにつながっていって、とても新鮮な感覚がしました。」

おわりに

今回は、bechoriさんにお越しいただいて、インクを使ったハンドレタリングのレッスンをしていただきました。
レイアウトの決め方にはじまり配色から装飾についてまで、ポイントを抑えることで、レッスン前とは見違えるほど上達することができました。

ハンドレタリングで華やかなメッセージを贈ることができれば、より一層相手に気持ちを伝えることができます。
皆さんも今回のレッスンを参考に、ぜひハンドレタリングに挑戦してみてくださいね。