過去の記事で入門編として、その歴史や成り立ち、様々な種類について取り上げた『ご当地インク』。
第二弾となる今回は、前回同様『ご当地インク』に詳しい文具ライターのふじいなおみさんに協力をいただき、初夏の風物詩をテーマにした『ご当地インク』をピックアップしてみました。
夏の訪れを少しだけ先取りして、いきいきとした生命力を感じさせる彩りをお楽しみください。
目次
初夏の花の『ご当地インク』
ジョイフル本田:ネモフィラブルー(茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園に咲く、ネモフィラ)
茨城県を代表する絶景スポットとしても人気のある、国営ひたち海浜公園みはらしの丘の、ネモフィラの群生。丘一面を彩る鮮やかな青色を、『ご当地インク』として再現したのが、ジョイフル本田の「ネモフィラブルー」です。
ふじいなおみさん:
「もし色で茨城を表現するとしたら、個人的にこのネモフィラの青は、必ず入ってくる色の一つだと思います。このインクは、青みの中にピンクが所々混ざった綺麗な遊色を見せてくれるため、発売当初からインクファンの間で根強い人気があります」
茨城県ひたちなか市にある、国営ひたち海浜公園に咲くネモフィラ。毎年、初夏のシーズンになると、この一面の色を観に、全国から多くの観光客がやってくる。
文房堂:ライラックピンク(北海道札幌市のシンボルツリー、ライラック)
北海道札幌市のシンボルツリーとしても有名なライラックは、毎年5月初旬〜中旬ごろになると、鮮やかで綺麗なピンクの花を咲かせます。初夏の限られた時期だけに楽しむことができるため、別名で「初夏を告げる花」とも呼ばれているこのライラックの花の色を観に、毎年多くの観光客が訪れます。
ふじいなおみさん:
「このインクを制作された東京・神田神保町にある文房堂は、創業明治20年の老舗の画材屋さんで、もともとは油絵の具の色として発売していた色を、『ご当地インク』として再現したものだそう。もちろん色自体も素敵なのですが、昔から画材を扱っているお店が、私の故郷のシンボルツリーに咲く花の色を万年筆インクとして新たに発売したストーリーに惹かれました」
毎年5月になると開催される「さっぽろライラックまつり」は、大通公園を中心に咲く約400本の満開のライラックを楽しむことができるのでおすすめ。
石丸文行堂:長崎美景 眼鏡橋ハイドレンジアブルー(長崎市内にある眼鏡橋のたもとに咲く、紫陽花)
江戸時代初期に架けられた日本最古のアーチ型石橋で国の重要文化財にも指定されている、長崎の眼鏡橋。日本三名橋にも選ばれているこの橋のたもとには、いつからか小さな紫陽花が植えられており、毎年初夏の季節になると、橋を観に訪れた観光客の目を鮮やかなその色で楽しませています。
ふじいなおみさん:
「石丸文行堂が創業135年を迎えた記念にスタートした『長崎美景シリーズ』。観光名所の眼鏡橋の紫陽花の青色が、観光客の心に深く印象づけられていたため、その紫陽花の色をインクとして再現されたそうです。土の酸性度で花の色が変わる紫陽花がもともと好きで、初夏の花として選ぶならこの色だと思いました。長崎には観光で行ったことがありますが、まだこの色を直接見ることができていないので、いつか機会があれば……と想いを馳せている色でもあります」
長崎ゆかりのオランダ商館医シーボルトが愛した花として古くから知られている紫陽花は、昭和43年に「長崎市の花」にも選定された。
初夏の味覚の『ご当地インク』
PAPIERPLATZ(パピアプラッツ):彩玉ink 『狭山茶 -SAYAMACHA-』(埼玉県の名産品、狭山茶)
古くから日本三大銘茶のひとつと言われ、「色は静岡 香りは宇治よ 味は狭山でとどめさす」と茶摘み歌の中で歌われているほど、その深い味わいに特徴を持つ、狭山茶。この「狭山」とは、東京都と埼玉県にまたがる丘陵「狭山丘陵」を指すもので、現在では、埼玉県西部(入間市、所沢市、狭山市)を中心に生産されています。
狭山茶は、分業制を採用している他のお茶の生産地とは異なり、それぞれの農園が生産・加工・販売までを一貫して行っている場合が多いため、地酒やクラフトビールのようにそれぞれの農園によって異なるお茶の味わいを楽しむことができます。
ちょうど初夏の季節になると、深い味わいの狭山茶がいっせいに全国のお茶の間に届けられます。
ふじいなおみさん:
「紙製品を中心に企画・販売しているステーショナリーブランドのPAPIERPLATZ(パピアプラッツ)。その中で、埼玉の魅力をインクで表現されてきた『彩玉ink』というシリーズのうち、埼玉の名産品である狭山茶という「お茶の色」を再現したインクです。他の県には『ご当地インク』があるのに、埼玉にはなぜないのかと思い、埼玉の魅力に眼を向けたことが作るきっかけだったそう。見ていただくとわかると思いますが、本当に目が覚めるようなお茶の瑞々しい色が表現されていて、その再現度に驚かされます」
令和3年1月に、新品種の「さやまあかり」が誕生。これまでよりいっそう鮮やかな緑色で、旨味と、ほど良い渋味が特徴。
(画像はイメージです)
ナガサワ文具センター:オノマトペ INK 万年筆インク NAGASAWAオリジナル 25ml にょきにょき(初夏に旬をむかえる、豆苗)
スーパーなどでも一年中見かけることができる豆苗ですが、実は、その味わいを最大限に楽しむことができる旬は、春から夏にかけて食べ頃と言われています。
順調に育てば、種まきからわずか7〜10日ほどで収穫することができる豆苗は、他の植物と比べても特に成長力が強いため、お皿やプランターなどで手軽に栽培することができます。
ふじいなおみさん:
「オノマトペというこのシリーズは、前回記事でお話ししたKobe INK物語をプロデュースしてこられた商品開発室室長の竹内さんが、後継者を育てたいとの想いから、女性社員に一任して作られたシリーズ。多くの『ご当地インク』が大手メーカーに製造を依頼するケースが多い中、インクも瓶も、すべてオリジナルで作られています。にょきにょきというのは、「にょきにょき育つ豆苗」が成長するその姿に愛着を持った制作者がつけた名前だそうで、植物のエネルギーを感じる、鮮烈で爽やかな緑が印象深い色です」
豆苗は、一度切ってもわき芽の部分からまた茎が伸びて育つため、わき芽を残してカットすることで、繰り返し再生栽培を楽しむことができる。(画像はイメージです)
初夏の生き物の『ご当地インク』
Penne19 Maruuchi × Tono&Lims:オリジナルインク 釜揚げしらす丼&深海生しらす(静岡県駿河湾で獲れる深海生しらすと、釜揚げしらす丼)
静岡県の駿河湾は富士山の南に広がる海域で、その水深は最大2,500mと、日本一深い湾としても知られています。豊かな3種類の海洋深層水にたっぷりと含まれるミネラルを栄養源に、桜エビをはじめ、多様な海洋生物が育つことでも有名です。
そんな豊かな海の底で生き生きと泳ぐしらすと、富士市のご当地グルメ「釜揚げしらす丼」にそれぞれ着想を得て作られたのが、この2つのインクです。
ふじいなおみさん:
「静岡県富士市から「書く楽しさ」をテーマに文具を販売してきたpenne 19が、展開する『しらすシリーズ』は、Tono & Limsが手がけるようになって、しらすに特徴的な繊細なラメのきらめきを表現できるようになりました。例えば、この釜揚げしらすの色は、白いラメがしらすを、緑のラメがネギを、黄色のラメが生姜の色を、それぞれ表現しているそうです。どちらも地元の名物でもある、しらすへの愛着を感じさせる色です」
左は釜揚げしらす、右が深海生しらす。同じしらすでも、食べ方の中で生まれる微妙な色の違いをインクで再現しようというその発想と試みに脱帽。
初夏の観光名所の『ご当地インク』
大丸藤井セントラル:オリジナルインク「青の彩集(さいしゅう)」No.001 青い池(北海道美瑛町の、青い池)
SNSを中心に大きな話題を集めている、北海道の美瑛町にある、通称「青い池」。初夏の日差しを受けてその色はいっそう青く澄み、背後の新緑と相まって、美しさが際立ちます。
とはいえこの「青い池」は自然に生まれたものではなく、1988年(昭和63年)12月に噴火した十勝岳の堆積物による火山泥流災害を防ぐために、美瑛川本流に複数建設された堤防のひとつに水が溜まったことで、偶然生まれた池なのだそう。
源流となる美瑛川の澄んだ水と、白髭の滝などから流れ出るアルミニウムを多く含んだ地下水とが混ざることで、 水中に漂ったこれらの成分が、太陽光を乱反射させた結果、青色に見える水質になったと言われています。
ふじいなおみさん:
「札幌の大丸藤井セントラルが定番のインクとして、北海道の色々な水の色を集めている『青の採集』の、記念すべき一色目です。おそらくこの色の特有の深みが、シリーズのきっかけになったのではないかと推測してしまうほど、惹き込まれる色をしています。このインクを買ってから実際に行ってみるもよし、観光に行った帰りに、大丸藤井セントラルでこのインクを買うもよし。両方の色を楽しめてしまうのも、『ご当地インク』ならではです」
一年で様々な表情を見せる「青い池」。初夏のシーズンは、針葉樹の深い緑と池のエメラルドブルーの対比がみどころ。
ジョイフル本田:オリジナル 尾瀬エメラルド(尾瀬国立公園)
尾瀬ヶ原は、群馬・福島・新潟にまたがる、標高約1,400mに位置する高地の湿地帯で、2007年に29番目の国立公園としても指定された、豊かで貴重な生態系を持つ、自然の宝庫です。
尾瀬といえば、多くの人がイメージするのが水芭蕉の花ですが、その開花時期は、例年5月下旬から6月初旬、尾瀬沼では一週間ほど遅く6月初旬から中旬ごろとなっており、初夏にその見所を迎えます。その頃になれば山頂の雪も溶け、水芭蕉を見に来る大勢のハイカーたちで賑わいます。
ふじいなおみさん:
「群馬の色の一色として販売されている色ですが、同地域にあるコミュニティFMで番組のパーソナリティーをしていたこともあり、尾瀬という地域に思い入れがあって選びました。実はまだ尾瀬ヶ原には行ったことがないので想像ではあるのですが、遠くの山並みを眺めたときの色だったり、青々とした高原の色だったり、作った方の尾瀬のイメージを想わせてくれる素敵な色です」
辿り着くまでにはしっかりと準備をしていく必要があるが、高い標高で空気が澄んでいることもあり、尾瀬ヶ原で見る景色は格別。
おわりに
初夏の色を感じさせる『ご当地インク』特集、いかがでしたか。どの色も夏の訪れを感じさせてくれる色で、ワクワクしてきます。ぜひ皆さんも、自分だけの初夏の色のインクを探しに、出かけてみてくださいね。
初夏の色といえばこれ! という色があれば、ぜひInstagramのコメントで教えてくださいね。
また、過去に特集した『ご当地インク』を楽しもう!〜入門編〜の記事もぜひチェックしてみてください。
(記事内すべてのインクの提供:ふじいなおみさん)